宇都宮森林公園特設コースで繰り広げられた、トップ選手たちによる全力勝負。積極的なアタックでレースを絞り込んだレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)が宇都宮ジャパンカップ覇者に輝きました。レースの模様をお届けします。




1990年開催の世界選手権のメモリアルレースとして1992年に初開催された宇都宮ジャパンカップロードレースは今年で32回目。1996年にはワールドカップシリーズ最終戦に組み込まれ、近年は欧州勢もこぞって一軍選手を揃えて参戦する伝統のワンデーレースが、今年も佐藤栄一市長による号砲で幕を開けた。
宇都宮森林公園の特設コースは曇りながら、半袖でも問題ないほどの暖かさ。レースコースは幾多の名勝負を生み出してきた古賀志林道(釣堀〜頂上間1.14km/平均勾配8.4%)を含む1周回10.3kmのコースを合計14周する144.2kmで、獲得標高は2,660m(1周回当たりの獲得標高は190m)に及ぶ。この日はスタート直後の古賀志林道でいきなりワールドチーム勢が動いた。



シマノ勢が人数を固めた集団先頭からファーストアタックを掛けたのはサム・メゾノブ(フランス、コフィディス)。最初の古賀志林道の登りからハイペースで進み、その後のテクニカルな下りで、ゲオルグ・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト)やクリテ勝者ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)を含む6名が先行。4つのワールドチームが逃げに乗ったことでスピードを押さえたメイン集団からは、後手を踏みたくないTEAM UKYOのシモーネ・ラッカーニ(イタリア)が飛び出した。
一人追走したラッカーニが3周目の古賀志林道で逃げグループに追いついた一方、メンバーを乗せられなかったアンテルマルシェ・ワンティはアシスト全員を出してメイン集団を牽引。3周目まではタイム差を1分10秒〜20秒ほどでコントロールしていたものの、4周目の登坂区間で一気にペースアップ。下りを経て、30名程度に絞り込まれた集団が逃げグループの背後へと迫った。




マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム・ジェイコ・アルウラー)やレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)といった優勝候補が入った第2グループが先頭を追いかける。その背後では後手を踏んでしまったソリューションテック・ヴィーニファンティーニが新城幸也の牽引で猛追走。先頭と第2グループは5周目後半区間に追いつき、35名となった集団内には、唯一の日本人選手として橋川丈(愛三工業レーシングチーム)が奮闘を見せた。
2回目(6周目)の山岳賞を獲ったのはニコロ・ガリッボ(イタリア、TEAM UKYO)。34名の集団はまとまるはずもなくアタックと吸収が続く。その後ろの追走グループからは、キリロ・ツァレンコ(ウクライナ、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)やベンジャミン・ダイボール(オーストラリア、ヴィクトワール広島)、岡篤志(Astemo 宇都宮ブリッツェン)、サイモン・クラーク(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)の4名が望みを繋ぎながら追いかける。



激しい展開が一旦落ち着きを取り戻したのは、先頭からルカ・ヴァン・ボーヴェン(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ)が一人逃げを決めてからだった。ヴァン・ボーヴェンが1分半リードで逃げ、ペースが落ち着いたメイン集団に岡やクラークは合流成功。3周回ほど一人逃げが続いたものの、レースが2/3を消化したタイミングで人数を揃えたイスラエルが古賀志林道でペースを一段階引き上げた。ハイペースとなったメイン集団はヴァン・ボーヴェンを飲み込み、ここで岡と橋川は惜しくも脱落。
最後の山岳賞がかけられた残り3周回の古賀志林道で「特に詳細な作戦はなかったけど、レースを絞り込みたかった」と振り返るマルティネスがペースアップし、メンバーが絞り込まれたが、マシューズやベンジャミ・プラデス(スペイン、VC FUKUOKA)らはここで勝負を取りこぼしてしまった。最終局面で先頭に残ったのは次の7名。

レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)
アレックス・ボーダン(フランス、EFエデュケーション・イージーポスト)
ヨン・イサギレ・インサウスティ(スペイン、コフィディス)
サム・メゾノブ(フランス、コフィディス)
ライリー・シーアン(アメリカ、イスラエル・プレミアテック)
マティス・ロンデル(フランス、TUDORプロサイクリングチーム)
アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア、TEAM UKYO)
先頭7名は追走を吹き切ってラスト2周。再びマルティネスによるペースアップで人数が絞り込まれ、ハイペースを維持しながら最後の古賀志林道へ。その上り口から爆発的なアタックを仕掛けたのは、やはりマルティネスだった。
古賀志林道で3周回連続アタック。「トップスピードで登っていてもなおレニーの方が速かった」と振り返るイサギレたちを振り切って、22歳のクライマーが10秒リードで頂上を越える。ボーダンとイサギレがローテーションを回しながら追いかけたものの、ビッグギアを踏むマルティネスは1秒、また1秒とリードを少しずつ上積みしていく。コース後半のアップダウン区間でリードを広げたマルティネスが、最終的に32秒リードでフィニッシュラインに飛び込んだ。

「こんな結果を出せて、とても気分が良い。今日はチームも素晴らしい仕事ぶりだったし、自分のコンディションも良かったので最後に動くことができた。日本でレースを走るなんて滅多にあることじゃないから、そんな場所で勝てて嬉しいよ」と言うマルティネスはU23のヤングライダー賞も獲得。
「登りが長くないから早めに仕掛けたんだ。ラスト3周と2周の登坂で人数を絞り、ラスト1周のタイミングで一人になろうと思った。集団でフィニッシュするよりも一人になった方がレースをコントロールできるからね」と、名選手ミゲル・マルティネスを父に持つフランスの次代を担うクライマーが、持ち前の登坂力を武器に今シーズン最終レースで勝利した。バーレーン・ヴィクトリアスにとっては初出場の2019年から数えて5回目の出場にして掴んだ宇都宮ジャパンカップ優勝だ。
2位争いのマッチスプリントで先着したのはボーダンで、3位はイサギレ。影の優勝候補として押されていたロンデルが4位、TEAM UKYOのファンチェルが5位と気を吐く結果に。途中の有力グループに入っていた橋川と岡は最終的に遅れ、22位の留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)が日本人最高位となった。
宇都宮ジャパンカップロードレース2025結果
1位 | レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) | 3h30'00" |
2位 | アレックス・ボーダン(フランス、EFエデュケーション・イージーポスト) | +32" |
3位 | ヨン・イサギレ・インサウスティ(スペイン、コフィディス) | +33" |
4位 | マティス・ロンデル(フランス、TUDORプロサイクリングチーム) | +40" |
5位 | アレッサンドロ・ファンチェル(イタリア、TEAM UKYO) | |
6位 | ライリー・シーアン(アメリカ、イスラエル・プレミアテック) | +49" |
7位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム・ジェイコ・アルウラー) | +1'46" |
8位 | サム・メゾノブ(フランス、コフィディス) | +1'49" |
9位 | ジュリアン・ベルナール(フランス、リドル・トレック) | +2'39" |
10位 | パウ・マルティ・ソリアーノ(スペイン、イスラエル・プレミアテック)U | +2'47" |
山岳賞
3周目 | ゲオルク・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト) |
6周目 | ニコロ・ガリッボ(イタリア、TEAM UKYO) |
9周目 | ルカ・ヴァン・ボーヴェン(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ) |
12周目 | レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) |
アジア最優秀選手賞
留目夕陽(日本、EFエデュケーション・イージーポスト) |
U23最優秀選手賞
レニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) |
text : So Isobe
photo : Kei Tsuji, Yuichiro Hosoda, Makoto AYANO, Satoru Kato